光が死んだ夏
親友が“ナニカ”にすり替わった夏。君となら、それでもいい。『光が死んだ夏』の息苦しい魅力
蝉の声が脳に溶け込むような、うだるほどの暑い夏。日本のどこにでもあるような、閉鎖的な田舎の集落。そんなありふれた風景の中で、高校生のよしきには、たった一人だけ特別な存在がいました。幼馴染の、光です。
二人でいれば、退屈な日常も、息苦しいこの村も、少しだけマシになる。そんなふうに、互いが互いの世界のすべてだったはずでした。――あの山で、光が行方不明になるまでは。
一週間後、光はひょっこり帰ってきました。大人たちは安堵し、よしきも胸をなでおろします。しかし、再会した親友に、言葉にできない「違和感」がまとわりつくのです。些細な言動のズレ、時折見せる人間離れした身体能力、そして、どこか中身が空っぽになったような瞳。
まさか、そんなはずはない。そう自分に言い聞かせるよしきの日常は、ゆっくりと、しかし確実に侵食されていきます。そしてついに、よしきは確信するのです。目の前にいる、親友の姿をした“それ”は、光ではない、と。
「光はもういない。俺は、光の姿をしたナニカだ」
恐怖と絶望に突き落とされたよしき。しかし、光の姿をした“ナニカ”は、彼が知る光の記憶を持ったまま、以前と変わらない無邪気な笑顔を向けてくるのです。この瞬間、物語の本当の地獄が幕を開けます。私がこの作品に一瞬で心を掴まれたのは、この絶望的な状況下でよしきが下した、あまりにも切実な“ある決断”でした。
もし、あなたの唯一無二の親友が、得体の知れない“ナニカ”に成り代わってしまったら。そしてその“ナニカ”が、親友だった頃の記憶を持ち、変わらぬ友情を向けてきたとしたら。あなたなら、どうしますか? 通報しますか? 逃げ出しますか? それとも…。
この物語の主人公は二人。
- よしき:常識的でありながら、光のこととなると危うい一線を踏み越えてしまう少年。彼の葛藤と選択が、読む者の心を激しく揺さぶります。
- “光”:光の記憶と姿を持つ、正体不明の“ナニカ”。時に無邪気で、時にゾッとするほど恐ろしい。そのアンバランスな存在感が、物語に不穏な魅力を与えています。
本作は、背筋が凍るようなホラーでありながら、二人の歪で純粋な関係性を描くブロマンスでもあります。閉鎖的な村の因習や、次々と起こる怪異。謎が謎を呼ぶ展開にページをめくる手が止まりません。
じっとりとした夏の空気と、逃れられない恐怖、そして胸を締め付けるほどの切なさが同居する唯一無二の物語。この夏、あなたもよしきと共に、光が死んだ夏を追体験してみませんか? きっと忘れられない一冊になるはずです。