最近、久々に「読んでよかった」と心の底から思える漫画に出会いました。
『白紙の上でさようなら』。
電子コミックのトップページで偶然見かけたのがきっかけです。 どこか切ない響きのあるタイトルに惹かれて、軽い気持ちで読み始めました。
それが、まさかこんなに引き込まれるとは……。
読み終えた今、ずっしりとした満足感と、主人公の「これから」に思いを馳せる、静かで温かい余韻に包まれています。
才能に蓋をして生きる日々と、息苦しい現実
物語は、主人公・恵(めぐみ)の息苦しい日常から始まります。
彼女はかつて16歳で漫画賞を受賞したほどの才能の持ち主。 でも、その受賞がきっかけで家族関係が壊れてしまい、以来15年間、自分の夢にも才能にも固く蓋をして、目立たないように生きてきました。
今は漫画家のアシスタントとして細々と働き、恋人の環(たまき)と暮らしている。
でも、この恋人との関係がまた、読んでいて苦しくなるんです。 恵の自己肯定感の低さにつけ込むような、モラハラ気質のある彼氏。 恵自身も、過去のトラウマから「私が我慢すればいい」とすべてを飲み込んでしまう。
序盤は、恵が抱える罪悪感や諦めが痛いほど伝わってきて、胸が締め付けられました。 「恵、そこは違うよ」「逃げて!」と、何度心の中で叫んだか分かりません。
止まった時計の針が動き出す「出会い」
そんな彼女の人生に、転機が訪れます。
ある日、ひょんなことから大ヒット漫画家・源田雲水(げんだうんすい)と出会い、彼のアシスタントとして働くことになるんです。
この源田先生が、本当に素敵な大人で。
彼は、恵が過去に描いた作品を覚えていて、彼女の才能を純粋に評価してくれます。 源田先生の仕事場は、恵が今までいた息苦しい世界とはまったく違いました。
「否定しない」人たちに囲まれて、アシスタント仲間と切磋琢磨する中で、恵の中に押し殺していた「描きたい」という熱が、少しずつ蘇っていくんです。
真っ白だった彼女の世界に、再び色がつき始める。 その過程が、本当に丁寧に、丁寧に描かれていて……。
もちろん、すべてが順調にいくわけではありません。 恵の変化を快く思わない恋人・環との関係や、彼女を縛り付ける過去のトラウマが、何度も彼女の前に立ちはだかります。
それでも、もがきながら一歩ずつ前に進もうとする恵の姿に、私はいつの間にか、すっかり感情移入していました。
「さようなら」は、再生のはじまり
この『白紙の上でさようなら』というタイトル。 読み進めるうちに、その意味が深く染み込んできました。
これは、自分を縛り付けていた過去の呪縛や、歪んだ人間関係への「さようなら」。 そして、何も描けなかった真っ白な紙の上に、もう一度自分の人生(物語)を描き始めるという「再生」の決意なんだと、私は感じました。
これは単なるシンデレラストーリーではありません。 深く傷つき、歩みを止めていた一人の人間が、人との出会いを通じて「自分」を取り戻し、再び立ち上がるまでの、痛みを伴うリアルな軌跡の物語です。
まとめ:傷ついたことのある全ての人へ
読み終えた今、恵が自分の足で未来へ歩き出す姿に、静かな感動を覚えています。
もし、あなたが
- 過去のトラウマや出来事が原因で、何かを諦めてしまった経験がある人
- 息苦しい人間関係に悩んだことがある人
- 誰かが再生していく姿に、そっと勇気をもらいたい人
そうであるなら、この物語はきっと、あなたの心に深く響くはずです。
無理に背中を押すのではなく、「大丈夫、あなたはあなたのままで、もう一度始めていいんだよ」と、隣で優しく語りかけてくれるような。 そんな温かさを持った作品でした。
■作品データ
- ジャンル:人間ドラマ / 恋愛 / お仕事(漫画家)
- キーワード:夢の再挑戦 / 再生の物語 / トラウマからの回復 / 毒親 / モラハラ / 自己肯定感


