逃げ上手の若君
ただ逃げる、それが最強の戦いだ!『逃げ上手の若君』が描く新しい英雄像に震えろ!
もし、昨日までの日常が、信頼していた人の裏切りによって一夜にして灰燼に帰したら。もし、あなたが家族も地位も故郷もすべてを失い、日本中から追われる身となったら――。あなたなら、どうしますか?
今回ご紹介したいマンガ、松井優征先生の『逃げ上手の若君』は、まさにそんな絶望的な問いから始まる物語です。
舞台は鎌倉時代の末期。主人公は、鎌倉幕府を治める北条家の嫡男・北条時行。何不自由なく、蝶よ花よと育てられた、まだ幼い少年です。しかし、彼の平和な毎日は、幕府の重臣であった足利高氏(のちの尊氏)の突然の謀反によって、音を立てて崩れ去ります。
燃え盛る鎌倉の街。目の前で次々と命を落としていく一族。父が最後に遺した言葉は「生き延びて、家名を再興せよ」という悲痛な願いでした。たった一人、郎党に守られながら故郷を脱出した時行を待っていたのは、「国賊」の汚名と、全国に張り巡らされた追手の網。この瞬間から、彼の壮絶な逃避行が幕を開けるのです。
この導入部だけでも胸が苦しくなりますが、『逃げ上手の若君』の本当の面白さはここからです!
主人公は「逃げ」の天才!個性豊かな仲間たち
本作の主人公・北条時行は、武芸も学問も平凡。英雄に求められるようなカリスマ性も持ち合わせていません。しかし彼には、神が与えたとしか思えない、たった一つの才能がありました。それは、誰よりも巧みに、誰よりも華麗に「逃げる」こと! 敵の攻撃を予測し、地形を利用し、人の心理の裏をかく。その逃げっぷりは、もはや芸術の域です。
そんな時行を支えるのが、信濃国の神官・諏訪頼重。未来が見えると豪語する胡散臭い男ですが、その能力は本物。彼の下に集った、怪力の少年・弧次郎や変装上手の亜也子など、一癖も二癖もある仲間たち「逃若党」との絆も、この物語の大きな魅力です。
「逃げる」は恥じゃない、最強の戦略だ!
私がこの作品に心を鷲掴みにされたのは、まさにこの「逃げる」という行為を、徹底的にポジティブに、そして戦略的に描いている点です。普通、物語の主人公は困難に立ち向かい、敵を打ち破るもの。しかし時行は、勝てない戦いからは、ためらいなく逃げる。それは決して臆病だからではありません。生き延びることこそが、未来を掴むための最も重要な戦いだと知っているからです。
絶望の淵に立たされても、決して希望を捨てず、飄々と、しかし必死に逃げ続ける時行の姿は、「生きる」ことの尊さを私たちに教えてくれます。歴史に基づいた重厚なストーリーでありながら、キャラクターたちの掛け合いはコミカルで読みやすく、歴史に詳しくない人でも夢中になること間違いなしです!
これは単なる歴史マンガではありません。過酷な運命に抗い、仲間と未来を切り拓く、新しい形の英雄譚。あなたも、北条時行の空前絶後の逃避行を、ぜひその目で見届けてみてください!
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